ひょんなことから熟成肉、初体験

地域誌「くるとん」編集長/藤井康弘

2016年の12月、年末用の肉を購入しようと、肉のこーべや(安堂畜産直営店)へ。対面コーナーで吟味していると、後ろから聞いたことのある声がしました。

「この肉を食べてみんかね。熟成肉ちゅうて、ちょっとびっくりするような味じゃがのぉ」。声の主は、安堂畜産の安堂光明会長。それはもう自信に満ちた笑顔です。

会長が薦めてくれた熟成肉とは、安堂畜産で初となるドライエイジング(特別に管理された冷蔵庫で、特別な微生物を繁殖させて長時間寝かせる肉の熟成法)によって熟成させた牛肉のことです。それまで行われていた真空包装によるウェットエイジングとは違い、水分が失われるために、うま味が凝縮されるのだとか。

100gが1,300円を超えるという、予算的にはかなりオーバーな品ですが、安堂会長直々の推薦とあれば、これはもう買うしかありません。一枚ほど試しに購入してみました。

さて、正月の楽しみにと、食べ盛りの子どもたちを含む5人家族の前で、開封。そしてがっかりしました。肉の色は、ややくすんでいます。霜降りでもなく、焼けばきっと固くなりそうな感じ。「本当に美味しいのかなあ」と頭に疑問符が付いたのです。

熟成肉

ところが、熱したフライパンに載せた瞬間からは、驚きの連続でした。ジューっという音とともに白い煙がたちこめて、なんともいえない香りがしてきます。明らかに普通の肉とは違うその香りは…、そう、香ばしいナッツのそれです。そして、ミディアムレアに焼きあがると、いよいよ実食。一杯の掛けそばのように、家族5人が一切れずつ味わいました。

熟成肉

まずは味の濃さにびっくりしました。塩と胡椒だけのシンプルな味付けでしたが、小さな一切れのなかに、お肉のうま味がギュっと凝縮されています。そして、焼く前の印象とは違って、とっても柔らかいのです。

「こんなに美味しいステーキは食べたことがない」。そして「なんでもっと買って来なかったのか」と家族から非難を浴びたことは、言うまでもありません。

それからというもの、肉のこーべやに熟成肉が現れるのを家族全員が、今か今かと待っています。