白い誘惑、ケンネ脂
安堂グループ直営の小売店・肉のこーべや玖珂店には、実に様々なお客様がいらっしゃいます。あるとき、肉売り場にこんな要望が来たそうです。
「ステーキを買ったときに付けてくれる白い脂。あれだけを売ってくれないか?」
そこで、その白い脂だけを袋詰めにした冷凍品の販売を開始したところ、「意外にこれを買って行く人がいてねぇ」と安堂光明会長。
そこで今回は、この白い脂を取り上げることにしました。
その正体は腎臓の周りの脂
この脂の正体はケンネ脂(またはケンネン)。腎臓のことを英語でKidney(キドニー)と言い、これが日本人には「ケンネ」とか「ケンネン」と聞こえたことが由来とのこと。つまり、牛の腎臓の周りに付いている脂です。ケンネ脂は熱すると溶けやすくて、クセがありません。だから、精肉に付ける「付け脂」として利用されています。

「あの店のチャーハンは牛脂で作ってるから美味しいんだ」なんて話を聞いたことがあります。なるほどと思いながらも、実際に牛脂を使ったものとそうでないものを比べて食べたことはありません。そこで、実験してみることにしました。
ケンネ脂とサラダ油を使った焼きめし、どっちが美味しい?
まずは、ケンネ脂を使って、具材と溶き卵を炒めて、そこにご飯を投入。シンプルに塩とコショウと少しの醤油で味をつけました。もう一つは、サラダ油を使って同じように作りました。

さて、まずはサラダ油で作った方を食べてみると、普通に美味しいです。いつも疑問に思うのですが、うま味調味料も使わずに塩・コショウ・醤油だけなのに、焼きめしにすると美味しいのは、いったいなぜなのでしょう。
さて、ハードルが上がってしまいましたが、ケンネ脂を使ったチャーハンを食べてみました。すると、すでに口に入れる前からお肉を焼いたときの香りがしてきました。口に入れると、明らかに牛脂のうま味が加わった感じがします。やはり、これはこれでとっても美味しい。肉が好きな人にとっては、断然こっちが好みのはずです。
ケンネ脂のニラ玉スープ
ケンネ脂を使って、簡単に作ることができるスープに挑戦しました。鍋のなかで脂を熱して溶かします。そこに水を入れて、お好みで醤油と鶏がらスープ、ショウガを加えて一煮立ち。ニラを入れて卵を溶き入れたら完成です。

立ち上がる香りはもう焼肉店にいるようです。スープには少し脂が浮いていても、飲んでみるとクセのないあっさりした味わいでした。
これにごま油をちょっとたらすと香ばしくなり、ラー油をちょっとたらすとピリ辛になり、そして、コショウを振ってもいい感じ。いろんな味変を楽しみました。
ケンネ脂で焼きナス
油と相性の良い野菜といえば、記者の場合はナスです。そこで、簡単に作ることのできる焼きナスを試してみました。
ケンネ脂を溶かしたフライパンに半分に切ったナスを並べます。あとは弱めの中火で4~5分くらい待ちます。そして、裏返してまた4~5分待ちます。ちょっと焦げるくらいが美味しかったりします。

タレはあっさりポン酢もいいし、麺つゆでもいいでしょう。薬味にショウガやミョウガ、削り節などが合います。今回は麺つゆに削り節をかけていただきました。
ナスの果肉がスポンジのようにケンネ脂をたっぷり吸っていて、トロトロの食感と相まって、とても美味しいです。
ただ、ちょっと油がしつこい感じがしたので、後でポン酢にしてみました。すると、油のしつこさが薄らいで、さわやかな味わいに。冷やすとさらに清涼感があって美味しくいただきました。暑い夏、ビールのアテに最高です。
ケンネ脂を使えば、お肉がなくても牛肉のうま味を料理に加えることができます。「白い脂だけを売ってくれ」と言ってきたお客様の気持ちがわかりました。
ただ、中年太り気味の記者にとっては「白い誘惑」、禁断の味です。とっても美味しいけど、罪悪感がぬぐえないのです。
そこで提案です。ケンネ脂とサラダ油を混ぜてはどうでしょう。焼きナスでは、余ったナスをケンネ脂が残ったフライパンにサラダ油を入れて焼いてみたところ、肉のうま味を残しながら、美味しくいただくことができたのでした。
それにしても、腎臓といえば血液の老廃物を尿にするところです。その腎臓の周りの脂肪なのに、なぜかクセのない良質な調理油になる。なんだか不思議だと思いませんか?
では、牛肉珍味の旅はまだまだ続きます。