ああ、腹いっぱい食べてみたい! 超希少部位「センボン」
「センボン筋は、まだ食べたことがなかろう?」と、安堂会長。もちろん記者は食べるどころか聞いたこともありません。その部位は、牛一頭から400~600gくらいしか採れないという超希少部位。その名も、筋がたくさん通っているから名づけられたといいます。
さぞかし硬い肉質だろうと、覚悟しました。
肉塊を前にして、会長の説明が続きます。そもそもこの肉塊はハバキという部位で、モモ肉の一部だそう。そのハバキの片側の中央に白い筋の帯がある。ほんの5~6cmくらいの幅の筋。
実はこれがセンボン筋。
「ここだけだから、よく気を付けて取り出すように」
ということで、緊張しながら調理に臨みました。

センボンの切り出しに挑戦
このハバキは1.5kg、黒毛和牛で生後11年。経産牛として働いてきたメス牛です。命をいただくことに感謝しながら、超希少のセンボンを取り出します。
教えてもらったおかげで、容易にセンボンがどれなのかはわかりました。しかし、包丁を入れながら、さて、どのくらいの深さまでがセンボン筋なのか?迷いました。なんとなく筋の分かれ目をなぞって、なんとか取り出しました。計ってみるとこの時点ですでに310gでした。

この細長い筋と肉から、表面の脂や薄皮の筋を削いでいきます。これがまた、どこまで削げば良いのかがかわりません。なにせ、どこまでも筋だらけなのですから…。
削ぎ終わって計ってみたら、なんと160gしかないではありませんか!
たぶん記者は、削ぎ過ぎたのだと思います。

焼肉にしてみる

気を取り直して、まずは焼肉用に薄めにカットして、焼いてみました。
火が入ると、どうでしょう。見たこともないお肉の断面です。まるで脳ミソのようなちょっと気持ち悪い模様が現れました。筋が入り組んでいるせいです。さぞかし硬いのではないかと思いながら焼きました。

口に入れてみて、驚きました。なんとも柔らかいのです。筋はほどよくコリコリして、面白い。そしてなによりその美味しさにびっくりしました。コリコリの中から、濃厚なお肉の味わいがお口に広がりました。
「今までで一番、美味しいんじゃあありませんか?」と、社内一の食いしん坊君もご満悦でした。
ローストビーフにしてみたら…
こんなに柔らかいのなら、ローストビーフにしたらどうだろう。ということで、あと少ししか残っていない肉片を惜しげもなく調理してみました。
ローストビーフとタタキの間くらいの火の通りで完成しました。

口に入れると、焼肉よりもさらに柔らかな食感。そして、筋のコリコリ。加えて、肉のうま味も一層、濃厚に感じました。これにワサビを付けてみたところ。これまた美味です。
「今までで一番、美味しいんじゃあ…」と、もはや食いしん坊君はどっちが一番おいしいのかわからなくなったようです。
その名とは裏腹にセンボンはとても柔らかくて食べやすい部位でした。ほど良いコリコリ食感もまた魅力です。そして何より、濃厚な味わい。これは、長く生きた経産牛ならではなのかも知れません。
ただ一つ、欠点を言えば、量がないこと。ローストビーフはぜひご飯に載せてガツガツ食べたいところですが、そうは行きません。超希少部位の宿命です。
いつかセンボンを腹いっぱい食べてみたいものです。
では、牛肉珍味の旅はまだまだ続きます。