牛一頭にたった100gの宝肉! ミミクリ

「ミミクリ」という部位の名前を最初に聞いたとき、「耳かき」のことを連想して、聞き返してしまいました。安堂光明会長が持ってきてくれたのは、鮮やかなピンク色の小さな肉片が入った袋でした。「ミミカブ」という別名もあるそうです。
ミミクリとは、人でいうところのコメカミに当たります。顎を上下に動かすときに使う筋肉です。牛の耳の付け根のところ、一頭につき左右2つ、合わせて約100g程度しか採れないという、超が付く希少部位なのです。牛肉珍味の旅のなかでも、最も珍味と言えます。

一頭分のミミクリ、約100g
▲一頭分のミミクリ、約100g

定番の焼肉で

定番の焼肉でいただいてみることにしました。スジを切るようにして薄く切ってみると、細かくてキレイな霜が入っていて、見るからに美味しそうです。塩と胡椒を振りかけて、炙り焼きにしてみました。

焼肉用にスライス。鮮やかな霜降り
▲焼肉用にスライス。鮮やかな霜降り
炙り焼きでいただきました
▲炙り焼きでいただきました

口に入れると、濃厚な味わいが直ぐに感じられました。噛めばまた肉汁がジュワーと出てきます。なんとも言えない濃厚な肉の味わいに笑いが止まりません。牛が噛むときに使う筋肉ですから、ほほ肉のように硬いのかと思っていましたが、適度な弾力のなか、むしろ柔らかい印象。切るときに見えた白い筋も、ほとんど気になりません。

贅沢にステーキで

焼肉で美味しいのだから、ステーキでも美味しいはず。貴重なミミクリを贅沢に厚めに…、というか斜めに半分に切る程度にスライスして、やはり塩・胡椒を振ってフライパンに投入しました。ニンニクの香りが立ち込める中、表面に焦げ目をつける程度で仕上げています。

レアで仕上げたステーキ、ニンニクとの相性もバツグン
▲レアで仕上げたステーキ、ニンニクとの相性もバツグン

思った通りです。焼肉のときに味わった濃厚な味わいが、肉厚によってさらに濃く、しかも長く感じられます。
実は私たちが味わう前、安堂会長はある料理人にミミクリを送っていました。その料理人は、30年近く肉の料理人として活躍してきたシェフ・渡邊雅之氏。現在は山口県阿武町にて無角和牛の普及活動に従事されています。渡辺シェフから安堂会長に寄せられたメールには、「最高に美味しくて、その余韻が長く続く。もっといろんな人にこの美味しさを知って欲しい」と書かれていました。その「余韻」とは…、ああこのことなのかと、実感しました。

ポトフは、スープも肉もほっぺたが落ちる美味しさ

焼き料理以外にも何か美味しいものは作れないだろうかと、ネットで探りましたが、さすが超希少部位です。まったくヒットしません。そこで、部位の場所が似ている「ほほ肉」の料理からヒントを得て、ポトフを作ってみることにしました。野菜とともに塩だけで水煮するシンプルな料理だから、ミミクリの美味しさがそのまま味わえると思ったからです。

塩で下味を付けたミミクリと野菜を圧力鍋に投入
▲塩で下味を付けたミミクリと野菜を圧力鍋に投入

ミミクリに多めの塩をかけて30分程度、味をしみこませたら、圧力鍋に野菜と一緒に入れました。ジャガイモやニンジンにカブなどは大きめに切り、水は少なめにして、野菜から出るスープに期待しながら…。ミミクリは意外に柔らかいので、圧力は10分くらいです。

ミミクリのポトフ(たぶん、誰も作ったことのない料理かな?)
▲ミミクリのポトフ(たぶん、誰も作ったことのない料理かな?)

水と塩しか入れていないのに、スープの美味しいこと。ミミクリの濃厚な味わいが野菜のやさしいスープと合わさって、なんとも言えない旨味が出ています。肉の弾力も少し残っていて、噛めばまたスープがジュワーと口に広がって、「ほっぺたが落ちそう」とは、このことです。

安堂会長にご提供いただいたミミクリは約500g。しかし、それは牛5頭分に当たります。これ以上ないほどの希少なお肉を味わいながら、5頭の命をいただいていることに感謝しました。

では、牛肉珍味の旅はまだまだ続きます。