安堂グループの歴史物語[アナザーストーリー 9]

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 高森牛の歴史は明治初期に遡ります。その長い歴史のなか、山口県東部随一の牛肉生産を誇る安堂の名が登場するのは、意外にも戦後間もなく、昭和22年のことでした。
これは、現在の安堂グループに至る道のりを辿った歴史物語。そこには、激動の時代を生きた5つの世代、それぞれの苦難と歓喜の秘話がありました。

アナザーストーリー 9

3K職場とは言わせない

典型的な3K?

 牧場の仕事は「きつい、汚い、危険」という、いわゆる3K職場の典型だというイメージがあるかもしれません。しかし、それは近年、随分と改善されています。安堂グループの牧場・高森肉牛ファームはその流れの最先端にあると言えます。
 高森肉牛ファームが誕生したのは平成12年(2000)のことでした。牛肉の輸入自由化に対処する畜産業者への支援策(補助金)を活用し、それまでの牧場は肥育規模500頭だったものが、一機に1,000頭に拡大。6棟だった肥育棟は10棟になりました。
 肥育頭数が増えれば、それだけ人手もかかります。しかし、働き手を倍にするわけにはいきません。人件費もさることながら、人材確保やその育成、労務管理も大変になり、人手が足らない状況になると、肉牛の生育にも影響が及びます。
 そこで、肥育規模拡大と同時に、肥育の自動化・省力化に取り組むことにしたのです。

救世主、現る!

 安堂光明(現・会長)は各地の先進的な牧場を訪れ、視察を繰り返していました。ある日、神戸牛を肥育する兵庫県の牧場を訪ねたとき、牛舎のなか、レールを伝って移動する機械を目にしました。牛舎で自動的に餌を供給するロボット「自動給餌機」です。

 牧場の仕事のなかで、毎日欠かさず行わなければならないものの一つに給餌があります。一日に2回やる場合には、朝と夕、決められた量をスコップで配ります。それが大仕事です。しかも、人が手でやるからには、たくさんの牛それぞれに、きっちり同じ量を配るのはまず無理です。終りの方になると餌が足らなくなることもよくあって、肉牛の生育にもばらつきが出てしまいます。
 しかし、自動給餌機なら人手は要りません。しかも決まった量を正確に給餌できます。そして、さらに大きなメリットがあったのです。
 それは、プログラムすることによって、肥育前期用の餌と肥育後期用の餌を分別して給与できることです。一つの牛舎は、仕切りによって30~40のマスが設けられ、3~4頭が1マスに入ります。人手で給餌する場合は、同じ餌を必要とする牛のマスが並ぶ必要がありました。しかし、自動給餌機なら、肥育前期の牛のマスと後期の牛のマスがランダムに並んでいても、プログラムされている通りに餌を給与することができるのです。

▲自動給餌機
▲自動給餌機
二つのタンクにそれぞれ肥育前期用と後期用の餌を格納し、分離と混合の給与ができる。
バッテリー式で、稼働していないときに充電するため、急な停電にも対応できる。

 

 「この機械なら、餌の量にバラツキがでることもないし、同じ月齢の牛を集める必要もない。空いたマスに子牛を補充すればいいから、マスが空くような無駄もなくなる」。
 光明はすぐに機械のメーカーに問合せて、これの導入を決めたのでした。

牛が倒れた!

 ところがこの機械。いいことばかりではありませんでした。ある日のこと、牧場は騒然となりました。ある牛が突然、倒れて、苦しそうにもがいたのです。同じマスにいた牛も、鼻息が荒く、今にも倒れそうです。
 獣医師資格を持つ光明はすぐにそれが何なのかが分かりました。
 「これはいかん。鼓腸症(こちょうしょう)だ!」。
 それは、一度に多くの餌を食べ過ぎたときになる症状でした。食べた餌により、第一胃内にガスが充満して反芻(はんすう)が停止。ひどい時には呼吸困難に陥ります。これに対処するには、胃の洗浄や切開による他は手がありません。
 原因は、肥育前期の小さな牛に大量の餌を給餌機が与えたからでした。機械の誤作動ではなく、プログラムの入力ミスだったのです。
 「機械導入のメリットは大きい。でも、操作や設定を誤ると大変なことになる」。
 手痛い失敗からの学びでした。
 自動給餌機の導入は、劇的な省力化をもたらしました。給餌はほぼ手間いらず。ただし、プログラムの二重チェックは必須の作業になっています。

さらに、糞尿堆肥化の自動化

 さらに光明は、糞尿の処理にも省力化を実現しました。
 新しい牛舎では、牛は自分で外へと糞尿をけり出す構造。けり出された糞尿が貯まれば、スタッフはショベルカーでこれを運び出して、自動連続発酵槽に入れます。発酵槽の中心部は約70℃に保たれ、攪拌されながら糞尿の発酵が進みます。そして約1か月を掛けて徐々に糞尿は肥料へと生まれ変わるのです。

▲自動連続発酵槽
▲自動連続発酵槽

 後に光明はこの発酵槽に垂直スクリューを備えて、縦方向の糞尿の混和を図る工夫を施しました。肥育前期の牛の糞尿は水分を多く含み、肥育後期の牛のものは比較的乾いています。これらの湿りを均一にすることにより、発酵のさらなる効率化を実現したのです。

▲糞尿を縦方向に混和するスクリュー
▲糞尿を縦方向に混和するスクリュー

 そして、さらに来年(2022)には、糞尿処理をより省力化する新兵器が導入されることになっています。それは、超小型のショベルカーです。実は旧型の牛舎は糞尿のストックヤードが狭いため、ショベルカーが入れず、手作業で運び出していたのです。
「ショベルの幅は80cm。おもちゃみたいに小さいけど、これが来たら作業員はずいぶん楽になるよ」。

 もはや近年の牧場は、3K職場ではありません。少なくとも高森肉牛ファームについては、そう断言できます。


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