安堂グループの歴史物語[アナザーストーリー 10]

安堂グループの歴史物語 タイトル画像

 高森牛の歴史は明治初期に遡ります。その長い歴史のなか、山口県東部随一の牛肉生産を誇る安堂の名が登場するのは、意外にも戦後間もなく、昭和22年のことでした。
これは、現在の安堂グループに至る道のりを辿った歴史物語。そこには、激動の時代を生きた5つの世代、それぞれの苦難と歓喜の秘話がありました。

アナザーストーリー 10

木を食べる牛

衝撃映像

 2022年1月13日、木曜日の夕方、KRY山口放送のニュース番組に珍しい映像が流れました。肉牛が餌を食べている様子。その餌に目が釘付けになりました。木のカンナくず(実際はプレーナー/自動かんな盤から出るチップ)だったからです。アナウンサーが「木を食べる姿は初めて見ました」と驚いているのもそのはず、肉牛に木を食べさせる牧場は、「うち以外には聞いたことがない」と、安堂グループの会長・安堂光明も語ります。
 安堂グループの牧場・高森肉牛ファームでは、現在の牧場を最初に整備した昭和50年(1975)頃から、カンナくずを牛に食べさせてきました。その頃は光明の父・親之が経営していた時代。光明はまだ、獣医学部に通っていました。

安堂グループの歴史物語第10話 KRY画面
▲KYR山口放送「ニュースライブ」2022年1月13日より

きっかけは飼料会社の倒産

 それはある出来事がきっかけでした。それまで取引をしていた飼料会社が倒産したのです。その会社からは粗飼料(そしりょう)を仕入れていました。粗飼料とは、牧草やわら等による飼料で、胃の動きや反芻(はんすう)機能を活性化させることを主な目的にしています。
 牛は臆病な生き物です。だから、餌にありつけると、急いで食べられるだけ胃袋(第1胃)に詰め込みます。そして、安全な場所に移動してからゆっくり、口に食べ物を戻してかみ砕きます。これを反芻といいます。1分間に40~60回かみ、それを一日に6~10時間続けます。よくかみ砕いた食べ物は再び第1胃(部位名;ミノ)に入り、多数の微生物の作用により繊維質は炭水化物に発酵・分解されます。そして、第2胃(部位名;ハチノス)、第3胃(部位名;センマイ)と経るなかでさらに細かく分解され、第4胃(部位名;ギアラ)で消化液によって消化されるのです。

安堂グループの歴史物語第10話 牛の胃のイラスト
▲牛の胃のイラスト

 これら一連の消化機能にとって、反芻を促す粗飼料は無くてはならない大切な食事。肉牛の健康的な生育を左右すると言っても過言ではありません。そんな重要な飼料の供給が止まってしまったのです。
 さて、困ってしまった親之は、別の飼料会社からの供給を得ようと手配を急ぎますが、値段の交渉もあって、直ぐに確保は難しい。牛舎では腹をすかした牛たちが鳴いています。
 そこで思いついたのがカンナくずでした。今まで与えていた粗飼料のなかに木くずが混ざっていたことを、親之は思い出したのです。

意外な効能

 カンナくずは、柱を製材する過程で排出される副産物です。地域の製材所から分けてもらい、牛に与えてみると、最初は戸惑っていた牛も、空腹には勝てず、徐々に食べるようになりました。色々な木材を試してみましたが、針葉樹林はヤニがまざり、刺激臭もあって、牛は好まないことも判明。広葉樹林のものに絞り、その内、残留農薬の検査もして、安全なものだけを与えるようになりました。
 カンナくずに替えてみると、色々な利点が見えてきました。まずはその良質な繊維質。牧草やワラと同等かそれ以上の刺激を胃に与え、反芻を促進し、肉牛の食欲も増すようでした。実際、高森肉牛ファームで木くずを食べて育った牛の第3胃(センマイ)は、他の牛のものと比べると、明らかに黒色が濃くなります。それは、胃が活発に動いた証拠。それだけ健康に生育したという証明です。

安堂グループの歴史物語第10話 洗米の比較写真
▲右が高森肉牛ファームで木くずを食べて育った牛のセンマイ。黒色が濃いのは胃が活発に動いた証拠。

 さらには、牧草やワラの国内での生産が少なくなるなか、国産の樹木を原料にしたカンナくずは安定して手に入りました。その内、飼料会社が牧草やワラを輸入に頼る状況になってからも、国産の木くずを与え続けています。このことは地産地消にこだわる安堂グループにとって、とても好都合なこと。牛肉の商品価値の向上にも一役買っているのです。

 光明が大学を卒業し、家業を継ぐために戻ってきたとき、牧場の牛たちは木のカンナくずをもしゃもしゃと元気よく食べていました。
「えっ? 木を食べさせているのか!」と、光明は驚き、その横で親之は笑っていました。

 あれから半世紀近くが過ぎて、今度は息子・卓也(現社長)が、木くずを粗飼料にしていることを誇らしく語るのを見て、目を細める光明の姿がありました。


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